刻印された赤いゼラニウム  ーEngraved red geranium

カンカンに熱くなったアスファルトの車道の傍で 
赤いゼラニウムが咲いていた

夕刻に、長く遠く手が届かないところまで伸びた影 
闇夜に消えたはずの 君の幻影が浮かび上がる

在りし日の君の背中
在りし日の君の横顔

ベランダで いくつもの花を育てていた君の思い出
遠い記憶に鮮明に残る 赤いゼラニウム

もう 何十年も遥か遠い過去

変わり果てた君は
透明さと不透明さが複雑に入り混じる水面下にいる
極々薄い膜を切り裂きながら むくむくと立ち現れる

生かされながら 死んでいる
生かされながら 死んでいる
君は 生ける屍

教えてくれ この状態のどこが
人間の尊厳というのか 教えてくれ

どうやっても 戻らない 戻ることはない
在りし日の君

不安定に揺さぶりをかけにきて、不安をあおる
赤いゼラニウム

永遠に消えることはない
その 赤赤赤

赤いゼラニウム アスファルトの車道の側で咲いている
暑さで熱された車道の傍で咲く 赤いゼラニウム